冬山で遭難して、なぜ寝てはいけないのか

 3月27日午前8時半頃、栃木県那須町の「那須温泉ファミリースキー場」付近で発生した雪崩に巻き込まれ、栃木県立大田原高校山岳部の男子生徒7人と男性教員1人が亡くなる、痛ましい事故が起りました。産経新聞によると、救助に当たった那須山岳救助隊の高根沢修二副隊長は、眠りそうになるのを「寝るんじゃない」「しっかりしろ」と揺すったり、頬をたたいたりして何とか意識を保たせたと語っています。

 では、なぜ眠ってはいけないのでしょうか。

 我々人間の身体は神経によって制御されていますが、そのうち不随意、すなわち無意識のうちに働いている自律神経は、循環、呼吸、消化、発汗・体温調節、内分泌機能、生殖機能、および代謝といった機能を制御しています。

 さらに自律神経は交感神経と副交感神経の2つの神経系からなり、正反対の働きをしています。基本的に交感神経が働いている時は副交感神経は働かず、副交感神経が働いている時は交感神経は働いていません。

 交感神経と副交感神経の働きは次のようになっています。

交感神経

  • 起床して活動している時
  • 緊張してストレスがある時

副交感神経

  • 睡眠している時
  • 休息してリラックスしている時

 すなわち、起きて仕事、勉強、スポーツなどをしている時、あるいは緊張したりストレスが掛かっている時は交感神経が優位となっており、就寝して睡眠している時や休息している時、あるいは食事中や入浴中のリラックスしている時は副交感神経が優位となっています。

 ここで別の見方をすると、交感神経が優位の時は新陳代謝が落ちて血行が悪くなり、副交感神経が優位の時は身体の修復を行ないますから、新陳代謝を進めるために血行が良くなります。

 交感神経が優位の時血行が悪くなる理由ですが、緊張したりストレスがかかっている状態というのは身体に危害が加わる可能性があり、防御するために交感神経が優位となって血行を悪くします。例えば、腕に大きな怪我を負って出血が酷い状態を考えてみてください。出血を抑えるために交感神経が優位となり、血行を悪くしてできる限り出血を抑えようとします。

 言い換えれば、交感神経は「防御の神経」とも言えます。

 一方、副交感神経は睡眠中やリラックスしている時に働き、血行を良くします。これによって新陳代謝が促進され、身体の修復が行われます。

 交感神経と同じように言い換えれば、副交感神経は「修復の神経」とも言えます。

 さて、副交感神経が優位になると血行は身体の末端まで良くなりますが、血液は身体の熱も運んでしまいます。すなわち、血行が良くなって新陳代謝が進むという事は放熱も良くなり、体温が下がりやすくなる事を意味します。

 冬場うたた寝している時に急に寒くてぶるっとして、目が覚めた事がありませんか?

 すなわち、冬山で遭難した時に寝てしまうと身体からの放熱が良くなり熱が奪われて低体温症を起こし、凍死に至りやすくなるのです。

 寝なければ防御の神経である交感神経が働いて血行を抑制し、深部の体温が下がらないように維持します。身体の末端に血が行かなくなりますから凍傷を起こして指が壊死したりしますが、凍死する確率は下がります。

 冬山で遭難した時に寝てはいけない理由、おわかりになりましたでしょうか。

 

英国ポーツマス海軍工廠 2002年9月15日撮影