緩和ケアとベストサポーティブケア

(2016-11-04: 加筆訂正)

 「緩和ケア」とは、厚生労働省の定義では「病気に伴う心と身体の痛みを和らげること」となっています。

 さらにWHOでは「生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、疾患の早期より痛み、身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアル(宗教的・精神的な物事、神の、聖霊の、霊の、魂の、精神の、超自然的)な問題に関して、きちんとした評価を行ない、それが障害とならないように予防したり対処することで、人生の質(QOL: Quality of Life)を改善するためのアプローチである」と定義されています。

 これらの定義では特定の疾患について記述されていません。したがって癌患者に対してのみ行なうのが緩和ケアでありませんし、さらに踏み込むと、末期癌患者に対して行なうのが緩和ケアであるとはどこにも書いてありません。

 ところで、最近「緩和ケア」とともに注目を浴びているのが「ベストサポーティブケア」です。この2つの違いは、「緩和ケア」は「時期を選ばず」である、すなわち末期癌患者に対するものだけではなく治療中の苦痛を和らげる対処であるのに対し、「ベストサポーティブケア」は「もう治療方法がありません」という状況において、その時にできる最善の方法を実践するというものです。それは癌に対する直接的な医療に限らず、本人や家族を含めた精神的な支えであったりします。

 詳しくは、がんになったら読むマガジン「ベストサポーティブケアという考え方について」をお読みください。

 私も「緩和ケア」と「ベストサポーティブケア」の違いについて曖昧だったのですが、今回は「ベストサポーティブケア」について、一指法整体で何ができるのかお伝えしたいと思います。

 私はこれまでに二人の末期癌患者に施術を行なっていますが、そのうちのお一人が本日というか、もう昨日になりますが、三回忌を迎えました。今回はそのお客様ご本人とご家族について、前述したようにどのように対応できたか、具体的な事例として取り上げたいと思います。

 私のお客様にご家族でいらっしゃっているお客様がいるのですが、「身内に癌患者がいて、施術してもらえるかしら」と、2年前の2014年6月23日に言われました。会話の中で、私は以前癌患者に施術をした事があるので対応は可能であると伝えましたが、それからしばらく何も依頼はありませんでした。4か月ほど経って「施術して欲しい」という依頼があり、自宅から近い事もあって10月22日に伺う事になりました。

 お客様は当時31歳の奥様で、ご自宅に伺うとご主人に出迎えていただきました。室内に入ると飾ってある写真から5歳と3歳の幼いお子さんが二人いらっしゃることがわかります。切ない気持ちが込み上げてきました。

 奥様にお目にかかると残念ながら明らかに末期癌で、ご主人に介添えしていただいてまず車椅子に座っていただき、続いて床に敷いたふとんに横になっていただいて施術をおこないました。

 1時間の施術が終わって奥様は、意識せずに上半身を起こしました。次の瞬間奥様は「あ、起き上がれる!」と小さく叫んで、泣き出してしまったのです。すでに自力で上半身を起こす力も残されていなかったのでしょう、それが一指法整体の施術によって起き上がれる力が蘇ったのです。

 なぜそのようなことが起きたのか、私は考えました。

 癌になると、極端に基礎代謝が落ちます。交感神経が優位になると共に筋肉に弾力がなくなって、血行が細くなるからです。血液の流れが悪くなれば筋肉を動かすためのエネルギーが筋肉に十分に届かず、すなわち筋肉は「ガス欠」状態になって力を発揮できなくなります。一指法整体では、自律神経のバランスを良くすると共に筋肉をほぐして静脈とリンパ腺の流れを良くします。すなわち、このお客様が自力で起き上がれるようになったのは、自律神経のバランスが良くなって交感神経の緊張が緩和すると共に筋肉がほぐれた事によって血行が良くなり、「ガス欠」状態が解消されたと考えられます。

 健康であれば起き上がるという当り前の動作ができなくなっていたのがまたできるようになったということが、このお客様の気持ちに生きる希望が出てきたという事は間違いないでしょう。同時に身体の痛みも緩和したようでした。

 2回目は8日後の10月30日に伺いました。

 若いとがんの進行は早いとは知っていましたが、奥様は意識が混濁しており、ご主人から「横になる事ができないので、車椅子に座った状態で施術していただけますか」と言われました。たった8日の間の容体の激変ぶりに、私はがく然としました。

 翌日午前中、ご主人から電話があり「昨晩、妻は亡くなりました」と伝えられました。正直な所奥様は長い事はないなと思っていましたが、まさか私が伺った日の夜に亡くなるとは予想だにせず、しばらく絶句してしまいました。ご主人のお話では苦痛に苛まれず眠るように逝去されたとのことでしたが、お悔やみの言葉を言うことができず「言葉がございません」とお伝えしました。

 最後にご主人から感謝の言葉を頂いたのですが、「ベストサポーティブケア」とは、ご本人の苦痛を和らげるのは当然ですが、ご家族にとっても重要な事であるという事を、切実に考えさせられました。

 かわいいお子さんがいて幸せなご家族にぽっかりと空いてしまった穴の事を考えると切ないですが、親子の絆は強固になったのではないかと確信しています。また、亡くなられた奥様の思いが、私に今日(もう昨日ですが)が三回忌の命日であることを思い出させたような気がします。

この記事は、大津秀一先生の「緩和ケアが”切り替え”と言われなくなる時は来るか ヨミドクター清水健さんコラム 緩和ケア・BSC」を参考に、加筆訂正いたしました。(2016-11-04)

英国ポーツマス海軍工廠 2002年9月15日撮影
英国ポーツマス海軍工廠 2002年9月15日撮影